工業研究所は、平成17年度から「出向きます技術相談」の実施、「名古屋発オンリーワン技術」の追求等モノづくり中小企業支援の一層の強化に取り組んでいます。 これら支援策の充実のためには、基盤となる技術力の強化が不可欠であり、これまで培った各分野にまたがる技術を16のコア技術に集約・高度化して研究計画を策定しました。これら一連の支援・研究業務を平成17年度から3年間の中期目標・計画に取りまとめ、目標管理型の業務運営を進めています。このうちの研究業務に関して、目標管理の一環として外部委員による評価を行うこととし、今回初めて研究課題の事前評価を行ったのでその結果を公表します。 |
外部の学識者等8名(別添「名簿」のとおり。)から成る研究課題評価委員会において、当所の研究計画および研究成果を客観的に評価し、効果的・効率的な研究の実施、予算、人員等の重点的・効率的配分に反映させるとともに研究業務の透明性を高めることを目的とする。
平成17年6月22日(水)13時00分~16時30分
平成17年度から実施する研究のうち、コア技術に係る主要研究12件について下記5項目に関する事前評価を受けた。
(1)事前評価
評価指標 | A | B | C |
工業研究所の内部評価 | 4件 | 8件 | 0件 |
評価委員会の評価 | 5件 | 6件 | 1件 |
A:計画どおり実施する。
B:一部修正して実施する。
C:計画を変更して実施する。
★評価結果に対する当所の対応(別添「評価表」のとおり。)
(2)中間評価
評価指標 | A | B | C |
工業研究所の内部評価 | 0件 | 4件 | 0件 |
評価委員会の評価 | 0件 | 3件 | 1件 |
A:計画どおり実施する。
B:一部修正して実施する。
C:計画を変更して実施する。
★評価結果に対する当所の対応(別添「評価表」のとおり。)
(敬称略 順不同)
氏名 | 役職 |
沖 猛雄 | 名古屋大学 名誉教授 |
澤木宣彦 | 名古屋大学 大学院工学研究科長 工学部長 |
木本 博 | 科学技術交流財団 科学技術コーディネータ |
末松良一 | 豊田工業高等専門学校 校長 名古屋大学 名誉教授 |
飯田昭夫 | いいだ特許事務所 所長 |
神谷昭司 | 株式会社三琇プレシジョン 代表取締役会長 |
萩原義昭 | 萩原電気株式会社 代表取締役社長 |
竹中 修 | 科学技術交流財団 知的クラスター創成事業本部 事業総括 |
研究テーマ名 | 研究の概要 |
チタニア架橋粘土光触媒の合成プロセスおよび高機能化技術の検討 | ナノ酸化チタン粒子を粘土層間に分散させた多孔体であるチタニア架橋粘土光触媒は、従来の環境浄化光触媒で問題になってきた触媒への吸着性能の付与、疎水性環境汚染物質の分解性能、触媒固定化技術といった点において種々のメリットを有し、環境浄化光触媒のブレークスルーを狙えると考えられる。本研究では、チタニア架橋粘土の製造コストの削減、塗料化、さらなる高性能化といった課題を検討しつつ、企業と共同して実用化を図る。 |
バイオマス由来の環境適応材料の開発と応用 | ポリ乳酸等のバイオプラスチックは、生分解性や植物由来であることなどから、環境にやさしい材料として今後の普及が期待されている。しかしながら、製品化においては、対象となる製品、材料の組成、成形条件、物性の経時変化等が明確ではないため、普及が進んでいない。そこで、(1)物性や成形性が優れたコンパウンドの開発、(2)適切な金型の設計、(3)成形加工技術の確立について検討を進め、成果を企業に普及する。 |
機能性添加剤を目指した材料開発 | 蛍光や酸化防止機能を有するジフェニルアミンをベースとする新規化合物を合成し、ポリ乳酸等の生分解性ポリマーや汎用プラスチックへ添加した成形品を作製するとともに、化合物及び成形品の特性や物性について評価する。また、添加剤の環境への流出を軽減するため、添加剤とポリマーとの化学結合の生成による安定化を図る。 |
吸水・吸油材料の開発とその応用 | 吸水・吸油材料は、砂漠緑化のための保水材や原油流出事故の際の油回収材等として利用され、液状物質の保持、環境浄化、物質のリサイクルに役立つ材料である。この研究では、特に水や油を多量に吸収することができるゲル状物質に注目して、安定性の高いゲルや生分解性を有するゲル等を開発し、化粧品、インク等への応用を図る。 |
超臨界流体の利用によるバイオプラスチックのリサイクル技術の開発 | 代表的なバイオプラスチックであるポリ乳酸は、今後使用量が増加することが見込まれるが、それに伴って使用済み成形品の廃棄や、原料のトウモロコシ等の供給に問題が生じてくることが予想される。この研究では、ポリ乳酸あるいはポリ乳酸と他種ポリマーとのブレンドポリマーを対象にして、超臨界二酸化炭素を反応媒体に用いて、使用済みポリ乳酸をその製造原料に分解してリサイクルする技術の開発に取り組む。 |
金属強化マグネシウム合金複合材料の創製 | 複合材料の創製マグネシウムを他の金属で強化することによって、純マグネシウムの持つ高い制振性とリサイクル性を保ちながらも、従来なしえなかった強度・剛性を向上させた新しいマグネシウム材料を開発し、その特性を生かした機械要素部品への展開を図る。 |
加工機械等の性能診断技術の確立 | 加工機械は、部品や工具の破損・磨耗等により故障や性能低下を招き、部品や工具の交換時期の適・不適が製品の加工精度、コスト等に波及するため、機械の予知保全が課題である。加工機械等の故障や工具寿命を診断するために、加工性能等と密接に関連する異常な徴候として機械が発生する音やAE等をインプロセスで評価することに適した測定法を検討する。また、並行して、測定信号処理・診断のためのソフトの開発を行う。 |
部分軟化アルミニウム合金板の容器成形に関する研究 | 二酸化炭素排出量削減対策のひとつとしてアルミニウム製部品の採用による自動車の軽量化が検討されている。しかし、アルミニウム板はプレス加工が難しく、新たな設備投資が必要な特殊加工機の導入も普及していない。部分軟化したアルミニウム板を作製してプレス成形性を改善させる手法を用い、汎用のプレス機が利用可能で生産性の高い成形技術の開発を行う。 |
移動型画像計測システム | 可動式のカメラを使った高精度かつ高速度な画像入力技術と画像処理の小型化、照明方法等の周辺技術を確立し、複数台のカメラによる三角測量の技術を応用した計測システムを開発する。さらに一般的な静止画像や動画像のみならず、連続的なパノラマ画像や、カメラ固定で対象物を回転して得られる360度の画像等に、計測結果である有益な位置情報を加え、高精度な三次元画像計測技術を研究する。 |
金属材料の破損・不良調査事例のデータベース化 | 中小企業からの金属材料の破損・不良調査依頼に対して、今後もより的確・迅速に応えられる体制を維持あるいは強化していくために、過去の調査事例を有効に活用できるデータベースの構築をめざす。そのために材料や技術の進歩への対応を考慮して、調査事例の整理と内容の洗い出しを行い、データベース化に必要なデータ項目、入力の形式や方法等を検討して最適なデータ入力フォームを作成し、データベース化を進める。 |
熱・温度に関する材料物性評価、熱設計技術 | 電子機器の小型化・高性能化に伴って生じる発熱への対策が重要性を増している。そこで、使用時の製品の温度予測を行うため、シミュレーションを用いた熱設計技術を確立する。そして、コスト・信頼性で有利な自然対流を利用した空冷による効果的な放熱手法の開発を行う。また、電子機器の小型化・高密度化の必要性から、薄膜等の電子材料の熱物性評価法を開発し、その高精度化を図る。 |
製品の長寿命化技術 ―最適設計のための微小部位応力測定― |
製品の長寿命化は、形状変更等により応力集中やき裂進展速度を低下させることによって実現可能である。しかし、従来の方法では、破壊起点やき裂先端等微小部に発生する応力を詳細に測定できず、構造や材料の面で過剰設計となりやすい。そこで、ラマン分光法を用いた新しい微小部応力測定技術を開発し、製品の最適設計に役立てることにより、中小企業の高いモノづくり技術を生かした長寿命製品の開発を支援する。 |
研究テーマ名 |
内部評価 | 外部評価 | 当所の取り扱い | |||
評点 | 評価 | 評点 | 評価 | コメント | ||
チタニア架橋粘土光触媒の合成プロセスおよび高機能化技術の検討 | 12.6 | A | 12.7 | A | ・発展性あり。 ・評価方法を確立し、効能を明確にして進めること。 ・民間企業の参加も検討してほしい。 ・オリジナリティをもっと強調してほしい。 |
確立された光触媒性能評価方法を用い、民間企業の参加を図って、研究計画書のとおり実施する。 |
バイオマス由来の環境適応材料の開発と応用 | 13.8 | A | 14.0 | A | ・努力の積み重ねを期待する。 ・独自技術を大切にして、更なる飛躍を期待する。 ・仕事の進め方は良い。 ・ユーザーが何を求めているか、直接訪問して調査してほしい。 |
業界のニーズを把握しながら研究計画書のとおり実施する。 |
機能性添加剤を目指した材料開発 | 11.8 | B | 11.6 | B | ・目的を集中すると面白い。 ・新規高分子添加剤の開発を期待する。 ・材料メーカーから情報を入手し、なぜ市工研でやるのかを明確化すること。 ・世間のレベル(ベンチマーク)調査を行うこと。 |
当所オリジナルのフェナザシリン系化合物の光機能を活かした高分子添加剤の開発に特化して、実施する。 |
吸水・吸油材料の開発とその応用 | 11.4 | B | 11.6 | B | ・目的を集中してほしい。 ・ユニークな研究で成果を期待する。 ・テーマ設定が良い(ニーズ指向、ニッチ)。 ・材料メーカー、大学とも連携すると良い。 ・他への応用、波及も考えること。 |
企業ニーズを掘り起こしながら、化粧品、インク、保水材などへの適用を目指して実施する。また、増粘効果以外にも、安定剤、表面処理剤としての応用を図る。 |
超臨界流体の利用によるバイオプラスチックのリサイクル技術の開発 | 11.0 | B | 13.7 | A | ・必要な研究で期待出来る。 ・所内の連携を密にし、常に情報交換すること。 ・技術移転のモデルケースとなることを期待する(国レベルへの提案や中小企業へのトータルシステムの提供)。 |
所内連携を図りながら、研究計画書のとおり実施する。 |
金属強化マグネシウム合金複合材料の創製 | 10.6 | B | 8.7 | C | ・手法のリファインが必要。 ・従来法と比較するなど効率的な研究を進めると良い。 ・マグネシウム研究の背景(市工研での研究の経緯、国内外の状況)を明確化すること。 ・本研究のオリジナリティを明確化すること。 ・利用が遅れている理由の明確化(コスト、安全面等)が必要。 |
研究計画を制振性とリサイクル性、強度・剛性のバランスがとれた金属強化による新マグネシウム合金の開発に変更し、その特性を生かした機械要素部品への展開を図る。 |
加工機械等の性能診断技術の確立 | 10.6 | B | 10.5 | B | ・機器に関するテクニシャンや製造者、使用者等との連携があるといい。 ・工作機械メーカーの協力も進展には必要。 ・現場職人のスキル調査も重要。 |
企業と連携し、生産現場での加工機械の実態が反映された診断技術の確立を目指して実施する。 |
部分軟化アルミニウム合金板の容器成形に関する研究 | 13.6 | A | 14.0 | A | ・アルミニウム合金製品のリサイクル性も視野に入れてほしい。 ・マグネシウム合金にも生かせないか。 |
リサイクル性も視野に入れながら研究計画書のとおり実施する。 |
移動型画像計測システム | 10.8 | B | 10.5 | B | ・従来技術に比べての利点や出口がやや不明確。 ・環境認識への応用も視野に入れると良い。 ・リアルタイム性も重要である。 |
従来技術に比べて撮影範囲が広く高精度な三次元画像計測技術の確立を目指して実施する。 |
金属材料の破損・不良調査事例のデータベース化 | 10.6 | B | 12.0 | B | 材料の変化に対応できるデータベースになると良い。 事例の収集を拡大すると良い。 他からの事例取得の努力も必要。 |
データベース化にあたっては、材料や技術の進歩に対応したものとし、また、外部の調査事例も収録して、有効に活用できるデータベースの構築を目指して実施する。 |
熱・温度に関する材料物性評価、熱設計技術 | 13.0 | A | 11.5 | B | チップと基板のスケールの違うものが混在している。 大企業などの現状レベルを把握するのも大切。 |
解析のスケールに応じた効率的な電子機器の熱設計シミュレーション手法の開発を目指して実施する。 また、大手企業、特に自動車関連企業の熱設計に関する情報を積極的に収集して、研究に反映させる。 |
製品の長寿命化技術 ―最適設計のための微小部位応力測定― |
10.8 | B | 13.0 | A | 着眼点は良い。 他の方法に比しての特徴や応用範囲を明示すると良い。 タイトルは内容を表していない。「最適設計のための微小部位応力測定」の方が良いのではないか。 |
研究計画書のとおり実施する。 但し、副題を付記する。 |
・評点は、1.当所の使命との適合性、2.研究目的の妥当性、3.研究内容の妥当性、4.研究実施体制の妥当性、5.成果の波及効果の各項目(5点満点)における、評価委員の平均点の合計
・評価は、A:計画どおり実施する。 B:一部修正して実施する。 C:計画を変更して実施する。