研究報告

平成26年度研究報告

重点事業 (1テーマ)

事業名 高機能皮膜の作製と応用技術開発
指定分野 機能性・軽量部素材、環境対応技術
担当 [材料技術部]:金属・表面技術研究室
[プロジェクト推進室]
補助事業名 公設工業試験研究所の設備拡充補助事業〈(公財)JKA〉

1.目的

クロメート皮膜は亜鉛めっきの後処理皮膜として広く利用されてきたが、6価クロムの有害性が問題になってからは建築材料以外での利用が縮小している。代替技術として3価クロメートが開発され、広く普及しているが、簡易な分析方法がないことや3価クロメート液に含まれるコバルト塩が新たに規制対象になったことからクロムフリー後処理の開発が求められている。本研究では錫系、マンガン系および亜鉛系を主とした複合酸化皮膜の作製技術を確立してクロムフリー防錆皮膜への応用を図る。またこれらの酸化皮膜は光触媒、太陽電池、熱電素子としての機能を有するものがあり、これらの特性を利用した環境技術への応用を目指す。

2.内容

本事業では亜鉛めっきの後処理皮膜として酸化亜鉛、酸化錫、酸化マンガンなどの複合酸化皮膜を提案し、廉価な薬剤と処理法によるクロムフリー皮膜の作製手法を検討する。本年度は従来のクロメート処理と同様の化成処理法による酸化錫系の複合酸化皮膜の作製に取り組んだ。強アルカリや強酸領域では錫との置換反応が優勢となり、酸化皮膜が形成されない。有機酸塩をキレート剤に用いた錫系化成処理液に鉄やクロム、コバルト等の金属塩を添加し、複合酸化皮膜を作製した。鉄塩とコバルト塩を含む錫系化成処理液に浸漬し、錫-コバルト-鉄系複合酸化皮膜を作製することができた。硝酸によるpH調整によりpH5.1~5.3の範囲内において皮膜の成長が確認できた。

3.成果

化成処理法により亜鉛めっき上に錫系複合酸化皮膜を作製することに成功した。クロメート代替技術への適用について検証を進めている。また導入された装置はめっき業者が独自に開発しためっき皮膜の分析やナノメートルオーダーの特殊な塗膜の解析等、中小企業の新技術開発への取り組みに利用されている。平成26年度採択のサポイン事業において接触抵抗不良の原因となる金属接触時の原子拡散による合金層形成の評価に利用しており、導入装置の利用を想定したサポイン事業の提案が予定されている。また変色・欠陥などの原因の解析や、おもに表面処理製品の評価への利用が広がっており、今後導入装置のさらなる活用が想定される。

設置機器

機器名称 型式・性能 製造所名 設置年月日
光電子分光装置 PHI Xtool アルバック・ファイ(株) H27.1.21

重点研究、共同研究および指定研究

研究題目 高機能皮膜の作製と応用技術開発
研究区分 重点
指定分野 機能性・軽量部素材、環境対応技術
研究概要 重点事業のとおり

 

研究題目 製品の評価技術に関する研究開発
研究区分 重点
指定分野 信頼性技術
研究者 (システム技術部)○真鍋孝顯、松下聖一、山田博行、児島澄人、深谷聡
研究概要 1.目的

ものづくりにおける国際競争力を保つためには、コスト削減のみならず付加価値の高い製品を生産することが重要である。設計、製造を支援するCAD、CAM、CAEにおいて三次元データが使用される。一方、製品の評価・検証においては座標値による比較が行われてきたが、自由曲面や複雑な形状の製品が増加しこれらは数値による評価が困難である。このため、三次元データを基準とした評価が必要となり、精度良く評価を行うために三次元形状の高精度な測定が求められる。三次元形状による評価は分かりやすいアウトプットが得られるだけで無く、これまで看過されてきた差違が明確となる。よって、平成24年度JKA設備拡充補助事業で導入した非接触三次元デジタイザを活用し、中小企業のものづくり支援に不可欠な評価技術の高度化を目指す。

2.内容

非接触三次元デジタイザを用いた評価技術の向上を図った。本装置は光学式のため、測定対象物の表面状態によって測定精度や品質に大きな影響を及ぼすことが知られており、光沢面のハレーションや、黒色など表面の影響を効果的に減らす対策を施すことで測定精度、品質の向上を目指した。また、測定データの二次利用としてリバースエンジニアリングが注目されているが、工数が多く複雑であり対象物によって手法が異なるため、簡略化と時間短縮が期待されている。本研究では、ダイレクトモデラーを併用することでリバースエンジニアリングにかかる時間を短縮し、CAEやNC加工データとして利用可能にした。

3.考察

測定精度及び品質向上のために、従来の白色スプレーよりも塗膜厚の薄い酸化チタン粉体塗布により、測定精度・品質が大幅に改善されることを確認した。また、簡易測定治具を作成することによって貼り合わせ誤差を減らすと同時に測定効率を改善した。これによって、製品の形状を効率良く高精度に評価することが可能となった。一方、測定データのリバースエンジニアリングにおいてもデータ品質を向上させることで後工程の手間を大きく削減することができた。また、リバースエンジニアリングソフトとダイレクトモデラーを併用することで、大幅な時間短縮が可能となった。この手法はCAEや加工、金型作成等の工程において有効であることが確認できた。

 

研究題目 高機能性プラスチック材料の開発
研究区分 重点
指定分野 機能性・軽量部素材
研究者 (材料技術部)○石垣友三、高橋欽次、村瀬由明、小田三都郎、髙木康雄、
岡本和明、林 英樹、原田 征、山中基資、名倉あずさ
(システム技術部)二村道也
研究概要 1.目的

特殊な機能や高性能を有する高機能性プラスチック材料を開発するとともに、それに必要な分子の構造や配列と材料の性能との相関についての知見を蓄積し、当地域の中小企業へ提供することにより技術支援を行う。

2.内容

試料調製用に作製したφ3.0 mmの円柱状の成形体が得られる専用金型を用いて、金型温度や造核剤添加など種々の条件で成形したポリ乳酸(PLA)の試料を13CCPMAS測定を行った。また、測定後の試料をアニールしたものも測定した。

3.考察

透明な試料では3種類の炭素のいずれのピークもブロードであったのに対し、核剤添加したものやアニールを施した試料は白色で、各ピークが数本に分裂し、その分裂度合いは成形やアニールの条件に依存した。これは結晶部位の形成が成形条件や後処理に大きく影響されるためと考えられる。

 

研究題目 有機無機複合材料の高性能化に関する研究
研究区分 共同(産業技術総合研究所)
指定分野 CAE、機能性・軽量部素材
研究者 (材料技術部)○岡本和明、原田 征、飯田あずさ
(システム技術部)村田真伸、近藤光一郎
(プロジェクト推進室)伊藤清治
研究概要 1.目的

複合材料中のフィラーの成形時の流動による配向、相分離やフィラーの極性を利用した二次構造の発現、フィラーの核剤としての性質や加工特性への影響について研究を行い、複合材料のより高機能化、高信頼性化を目指す。

2.内容

金属繊維などのトレーサーを利用した繊維配向の評価のために、トレーサー含有率50%以上、厚さ0.3ミリ以下で、トレーサーの長さを1.5mmから数センチの間で調節可能なマスタバッチを試作し、押出機での予備混練なしで射出成形を行い、X線CTにより分散・配向状態を観察した。

3.考察

マスタバッチによるトレーサーの混合は、押出機による予備混練に比べて操作が簡易となるだけでなく、繊維の絡み合いがおこりにくいため良好な分散状態が得られた。さらに、成形機内に微細な繊維が残ることもないため実用化に対して有効であることが確認された。

 

研究題目 ナノ・マイクロ領域のマルチスケール表面処理技術に関する研究
研究区分 共同(産業技術総合研究所)
指定分野 機能性・軽量部素材
研究者 (プロジェクト推進室)○八木橋信、山口浩一、田中優奈、伊藤清治
(システム技術部)村瀬真
(材料技術部)加藤雅章、松本宏紀
研究概要 1.目的

従来から進めてきたナノメートル領域の表面処理技術とマイクロメートルオーダーの微細な凹凸を組み合わせたナノ・マイクロ領域のマルチスケールな表面処理技術に関する研究を進め、水や油に対する高い疎媒性や親媒性を実現し、機械部品や医療等への活用を目指す。

2.内容

実用的な疎媒性や親媒性表面を得るため、自己組織化の特性を活用したナノ・マイクロ領域のマルチスケールな表面処理について研究を進めた。また、外部競争的資金を獲得し、創生した表面の濡れ性を評価する動的接触角を、術者によらず安定して測定する装置の研究を開始した。

3.考察

シリカ前駆体や機能性官能基などを組み合わせることで、水やさまざまな油に対する高い滑落性を示す表面や、高い親水性を呈する表面の処理を実現した。これら研究成果の一部は論文として外部に公表し、また得られた知見は技術指導などを通じて市内中小企業向けに活用した。

 

研究題目 燃料電池の開発と応用
研究区分 共同(名古屋大学)
指定分野 環境対応技術
研究者 (プロジェクト推進室)○宮田康史、田中優奈
研究概要 1.目的

燃料電池は内燃機関の代替や可搬型電源として、二次電池はスマートグリッドや電動車両の蓄電池への応用として期待されている。今年度は電池材料として重要な炭素材料の開発および試作炭素電極の電気化学評価を行った。さらに微生物の電池応用について検討した。

2.内容

昨年度開発した炭素材料製造用CVD装置を用いて、ナノレベルで構造制御された炭素電極の試作を行った。電極の電気化学評価によりプロトンの酸化活性を確認し白金代替触媒として有効であることがわかった。また、微生物を固定化する電池電極材料として微生物の生息域から採取した導電性物質の組成と電気化学特性を評価し、電極への適用の可能性を確認した。

3.考察

ナノカーボンは作製条件によって燃料電池や二次電池に必要な特性を付与できることを明らかにした。開発したカーボンの物性や特性については今後の詳細な検討を行う。また、自然界から採取した物質を電極材料として応用する可能性が見えたので、環境適合性が求められる土壌や廃液処理などに応用する電池開発の検討を行う。

 

研究題目 無機系排水からの有価金属回収
研究区分 共同(名古屋大学)
指定分野 環境対応技術
研究者 (材料技術部)○木下武彦、柴田信行、野々部恵美子、小野さとみ
研究概要 1.目的

非イオン性界面活性剤を用いた連続向流泡沫分離法(CCFS)によるガリウムの分離回収において、市販界面活性剤10種の分離比較を実施した。

2.内容

ガリウム、鉄、亜鉛、銅を含む高濃度塩酸溶液から、これまで用いてきた非イオン性界面活性剤ポリエチレングリコール・モノ(4ノニルフェニル)エーテル(PONPE)を用いてCCFSによるガリウムの分離回収を行った。用いた界面活性剤はエチレンオキシド(EO)基を含む市販10種を用意した。

3.考察

EO鎖長が2から50までの界面活性剤を用いて本法によるGa分離を実施したところ、各金属の回収率はEO鎖長が長くなるにつれ増加傾向が見られたが、Ga/Fe分離度については最適鎖長20である事が判明した。

 

研究題目 シンクロトロン光を利用した亜鉛めっきおよびクロメート皮膜の構造・状態解析
研究区分 共同(愛知県鍍金工業組合)
指定分野 機能性・軽量部素材、環境対応技術
研究者 (材料技術部)○加藤雅章、三宅猛司、松本宏紀
研究概要 1.目的

ジンケート浴からの亜鉛めっきは脆く、しばしば割れなどが発生することがある。シンクロトロン光を用いた構造解析によって脆さの起源などを明らかにすることで、めっきプロセスの検討に明確な指針を与え、亜鉛めっき処理技術の高度化を図る。

2.内容

あいちシンクロトロン光センターを利用し、亜鉛めっきの構造を評価した。センターの設備はX線回折による結晶構造の評価とXAFS(X線吸収スペクトル)による局所構造・化学状態の評価に大別される。今回は薄膜X線回折により亜鉛めっきの結晶構造の経時変化を評価した。

3.考察

めっき直後はバルク体に比べてc軸、a軸ともに縮んでいた。ベーキング処理すると格子定数はバルク体に近く、歪が緩和されていると考えられる。時間経過でも格子定数はバルク体に近づくが、特定の結晶方位にゆがんだ結晶構造になっている可能性がある。

 

研究題目 次世代電子機器の実装技術に関する研究
研究区分 共同(中部エレクトロニクス振興会)
指定区分 信頼性技術、ICT
研究者 (システム技術部)○竹内満、白川輝幸、小田 究、岩間由希、梶田 欣、近藤光一郎、間瀬 剛
(支援総括室)高橋文明
研究概要 1.目的

次世代電子機器の実装技術の確立を目指し、(1) 高速伝送路の信号品質改善と電磁ノイズ低減に関する研究、(2) 電子機器の熱問題を解決するためのシミュレーション技術の開発に取り組んだ。

2.内容

(1) 4層基板による高速差動伝送線路の設計・作製を行い、信号品質と伝送特性の評価を行った。
(2) シミュレーション技術を用いた熱設計の時間短縮を図るため、電源回路で使われているトロイダルコイルについて、発熱実験と併行しながら解析モデルの簡易化の検討を行った。

3.考察

(1) 信号品質/伝送特性の評価では、5Gbps程度のデジタル伝送には実用に耐えうる信号品質と伝送特性であった。
(2) 実測と詳細モデルの温度差は3℃以内であり、簡易モデルと詳細モデルの温度差は5℃以内に収まり、メッシュ数を大幅に減らし、解析時間を大幅に短縮できた。

 

研究題目 異材接合技術の開発
研究区分 共同((一社)愛知県溶接協会)
指定分野 信頼性技術、機能性・軽量部素材、環境対応技術
研究者 (材料技術部)○毛利猛、松井則男、川尻鉱二、岡東寿明、山田隆志
研究概要 1.目的

異材を接合する場合には界面での金属間化合物生成による接合強度不足や熱影響による高強度鋼の強度低下、ぜい化などが問題となり、十分な強度やじん性などを持つ健全な接合とするためには多くのノウハウが必要である。そこで、本研究では、普通鋼とステンレス鋼や普通鋼とアルミニウム合金などの異材接合のデータを集積することを目的とする。

2.内容

厚さ1.4mmの980MPa級高張力鋼板と熱間圧延鋼板(SPHC)をレーザとTIGで突合せ溶接し、溶接部の組織試験(マクロ試験、顕微鏡組織試験)、硬さ試験、曲げ試験、引張試験を行った。レーザ溶接およびTIG溶接はそれぞれ参加企業で行い、試験片として提供いただいた。

3.考察

ビーム径が小さく溶接速度の速いレーザ溶接では、溶融部、熱影響部ともに狭くなった。アーク径が大きく溶接速度の低いTIG溶接では、溶融部、熱影響部ともに広くなった。溶融部はレーザ溶接の方が硬かった。また、熱間圧延鋼板側の熱影響部の硬さは同程度であったが、高張力鋼板側の熱影響部の硬さは、レーザ溶接の方が硬かった。

 

研究題目 LEDを利用した省電力装置の信頼性評価技術の開発
研究区分 指定
指定分野 信頼性技術
研究者 (システム技術部)○梶田 欣、山田博行、井谷久博、岩間由希、村瀬 真、立松 昌
研究概要 1.目的

省電力デバイスとしてLEDの使用が増えているが、LEDは発熱密度が大きく熱に弱いという欠点がある。そのため、製品設計が悪いと長期信頼性が確保できないことが多い。これらの問題を解決するためにLEDの適切な評価技術の開発とし、将来的には効率的な放熱手法を検討する。

2.内容

LEDの放熱経路を適切に評価する測定技術の確立と、それを再現する解析モデルの作成を行った。測定は過渡熱測定を行い、熱源から大気中への熱抵抗と熱容量を詳細に求めた。また、熱解析には不明な熱物性値が多く、実測に合う値を求めて、それを今後の解析に利用できるようにした。

3.考察

過渡熱測定を行うことによってLEDをはじめパワートランジスタなど半導体部品の3次元熱解析モデルを精度よく作成することができた。特にダイアタッチなどを評価、再現できるようになったことは実用面で有効である。今後はこれらのバリエーションを増やしながら、この測定手法・解析手法を使ってより優れた放熱について検討する。

 

研究題目 金型離型性向上のためのコーティング技術開発
研究区分 指定
指定分野 機能性・軽量部素材、環境対応技術
研究者 (材料技術部)○岡東寿明、三宅猛司、橋井光弥、山中基資、山田隆志
研究概要 1.目的

樹脂成形時に樹脂が金型へ付着することを防ぐために、離型剤塗布やフッ素樹脂コーティングが行われることがあるが、コストや作業環境、耐久性等の観点からよりよい対策が求められている。そこで、一般に有機材料よりも優れた耐久性を示す無機あるいは無機有機ハイブリッド材料を対象に、離型性・耐久性に優れ、容易に成膜できることを考慮したコーティング技術の開発を目的とする。

2.内容

本研究ではゾル-ゲル法を用いてアルコキシシラン類から前駆体溶液を作製した後、Al基板上に塗布・熱処理することで撥水・撥油性を有するコーティング膜を成膜した。水の接触角測定による撥水性や、発泡ウレタンの塗布・剥離試験において離型効果を確認した。

3.考察

ある程度の耐久性を持たせるためには膜厚を厚くすることが必要だが、無機コーティング膜の厚膜化は難しく、特に高い撥水・撥油性を期待できるフルオロアルキルシラン等では均一な厚膜成膜が困難であることが分かった。そこで前駆体液やAl基板の前処理を検討し、厚膜化が可能で樹脂離型効果のあるコーティング膜の作製が可能となった。