令和7年1月20日(月)に、令和6年度機関運営会議(研究課題)を開催し、令和6年度で終了する重点事業の事後報告(1件)、令和7年度から実施する重点事業の事前説明(1件)、令和7年度から実施する指定研究の事前説明(2件)を行いました。
機関運営会議は、外部の学識者等6名から構成されており、当所の研究計画や研究成果等について客観的な立場からご意見をいただき、効果的・効率的な研究の実施や予算・人員等の重点的・効率的配分に反映させるとともに、研究業務の透明性を高めることを目的としています。
令和7年1月20日(月) 14時00分~16時30分
機関運営会議においては、主担当者のプレゼンテーションに対して有意義なご意見を頂きました。
以下に、構成員からのコメントのまとめおよび当所としての対応方針を示します。
1) 重点事業「熱励起による非破壊検査手法の確立(R5~R6)」(事後報告)
機関運営会議のコメントまとめ
・赤外線による熱励起を用いた非破壊検査手法を確立し、非破壊検査のラインナップとして試験体や目的に応じて適切な方法を利用者に提供できることは有意義である。担当者は利用者へのアピールに努めてほしい。
・CFRPなどのマルチマテリアルの接着性やはく離性の評価をはじめ、リサイクル利用を含めて今後検査ニーズの増加が予想される。中小企業等が抱える多様なニーズに対応できる仕組みを考えてほしい。
・不具合解析だけでなく、多くの物性、構造の解析・評価での利用が期待できる。本手法と既存の方法との連携を積極的に進めて、地域中小企業の技術課題をカバーできる範囲を拡げてほしい。
当所としての今後の対応
・赤外線非破壊検査装置の原理や検査事例、各種非破壊検査装置の特徴及び試験体や目的に応じた検査方法の選択についてまとめた動画や資料を作成し、公開することにより利用者に向けた広報に努めます。
・マルチマテリアルなど様々な材料を対象として、本手法による検査事例を積み重ね、試作段階から品質保証まで中小企業が抱える多様なニーズに対応できるよう検査のノウハウ蓄積とスキルアップを図ります。
・不具合の原因追及や検査結果の確度を高め、より広い範囲で地域中小企業の非破壊検査の要望に応えられるよう、X線CTや超音波探傷などの既存の検査手法との連携を深めます。また、密度測定や示差走査熱量計などの既存の方法と連携し、各種熱物性分析による材料評価法の確立も目指します。
2) 重点事業「高速引張試験による動的機械特性の評価(R7~R8)」(事前説明)
機関運営会議のコメントまとめ
・高速引張試験機による速度に依存した材料特性の評価は、高精度なCAE解析のための有効な手段のひとつである。今後多くの利用も期待できることから、中小企業支援を行っていくうえで本試験機の導入は意義がある。
・本事業で従来のダンベル型試験片から実製品の測定に応用できるよう取り組むことは、新たな試みであり、中小企業のニーズにも合致している。また、多くのデータを蓄積して体系的に整理していくためにも、CAE解析を効果的に活用してほしい。
・中小製造業のDX推進は、公設試の今後の大きなミッションの一つと考える。企業が抱える課題を解決するために、さらに技術支援の質を高めて、中小企業の技術開発をサポートして行くことを期待する。
当所としての今後の対応
・これまでに蓄積してきたデータや計測手法のノウハウを活用し、自動車衝突や塑性加工の解析などを行うために必要な材料特性の取得を目指します。また、講演会などを通して本事業の推進及び地域中小企業の利用促進に努めていきます。
・実製品の形状を簡略化したモデルを作成し、CAE解析を活用することで最も変形が生じやすい部位の把握を目指します。その結果を基に、適切な形状や試験条件を決定し試験を実施することで、実製品の測定に応用できるよう取り組みます。
・測定結果の提供だけに留まらず、破面観察などを通じて破断や変形の原因を究明することにより、中小企業の課題解決に向けた技術支援を目指します。また、得られた知見を基にCAE解析の技術力向上や普及につなげることで、中小企業のDX推進を支援します。
3) 指定研究「特殊形状試験片によるひずみ速度依存性を考慮した異方性降伏関数の同定手法の開発(R7)」(事前説明)
機関運営会議のコメントまとめ
・研究を進めるにあたって、本手法を確立することで中小金属加工業が抱える課題の解決にどのように寄与していくのかを明確にしてほしい。
・本研究で有益なデータを得るためには、試験片形状の選定がポイントであり、CAE解析を用いるなど効率的に研究を進めるとよい。可能であれば、二軸引張試験機を用いた結果と本研究の結果とを比較して、どのくらいの精度の差があるのか検証してほしい。
・高速引張試験やDIC解析(デジタル画像相関法)を併用することによって、CAE解析に必要な速度に依存した材料特性の取得を可能にするなど、本研究の波及効果が高まることを期待する。
当所としての今後の対応
・本研究で取得する異方性降伏関数をCAE解析に活用し、中小金属加工業で課題となる高ひずみ速度での金属加工時の加工荷重やスプリングバック量の予測、加工時の割れやしわの不具合などの解決に寄与できるように努めていきます。
・CAE構造解析を活用して、単軸引張試験で多軸応力場を生成する試験片形状を検討します。また、十字型試験片を用いた二軸引張試験の結果と、特殊形状試験片を用いた単軸引張試験の結果を比較し、その精度を確認します。
・DIC解析を併用した高速引張試験によって、速度依存性がある材料特性の取得を試み、それらを用いて高精度なCAE成形解析を目指します。本研究で得た知見は当地域の中小金属加工企業へ展開し、企業の競争力の強化を図ります。
4) 指定研究「樹脂めっきの機械的特性に関する研究 (R7)」(事前説明)
機関運営会議のコメントまとめ
・本研究は樹脂めっき品の衝撃特性に着目しており、様々な用途の樹脂めっき品が多くなっている状況で、地域の中小サプライヤーの技術の高度化や提案力の強化が期待できる。ユーザーのニーズに耳を傾けて、研究を進めてほしい。
・様々な前処理方法や条件の違いによる、めっき特性と機械的特性との関係性を明確にして、学術論文への投稿に耐えうるデータの取得に努めてほしい。
・マルチマテリアルとしても期待される樹脂めっき品の機械的特性評価の確立は、今後の用途展開も含めて非常に重要である。今後はマテリアルリサイクルの観点も考慮して進めてほしい。
当所としての今後の対応
・引き続き技術相談などを通じ、日用品や自動車など樹脂めっき品を使用する業界からのニーズをより深く把握していくとともに、樹脂めっきの機械的特性に関する課題に対し具体的な指針を提供できる成果を得るため、サンプル作製、評価法、データ解析などの工夫に努めます。
・めっき条件と機械的特性の関係を明確にするため、クロム酸エッチングの前処理条件やめっき膜厚の違いがサンプル強度に与える影響を系統的に評価します。さらに、界面の観察を通じて破壊メカニズムを詳細に検討し、機械的特性と合わせて考察することで、学術論文への投稿を目指します。
・樹脂めっき品において、特性の異なる材料の接着・接合の観点から機械的特性を明確にすることで耐久性の向上を図り、製品の長寿命化などを通じた環境負荷の低減に貢献できるよう研究を進めます。
(敬称略 順不同)
氏名 | 役職 |
小橋 眞 | 名古屋大学 大学院工学研究科長・工学部長 大学院工学研究科 物質プロセス工学専攻 工学部マテリアル工学科 教授 |
渡辺 義見 | 名古屋工業大学 大学院工学研究科 工学専攻 物理工学系プログラム 教授 |
前納 一友 | 経済産業省 中部経済産業局 地域経済部 イノベーション推進課長 |
加藤 且也 | 産業技術総合研究所 中部センター 所長代理 |
旭野 欣也 | シヤチハタ株式会社 研究開発部 部長 |
柘植 良男 | 株式会社中央製作所 常務取締役 |